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大人しいと思う。
だが、志緒の性質は虎視眈々だ。
欲しいものは絶対に逃さない。
その機会を窺うためによく見、
できるだけ黙るんだ。
だからそれが叶った
この時ばかりは
あえかなる声を漏らしながらも、
貪欲なまでによく欲しがる。
セックスそのものに
意味なんてないと、
俺は今も思う。
だが、志緒にはそうじゃねえ。
それが、俺に
じくじくと痛みを伴って伝染る。
物理的な痛みじゃねえ。
体は正しく
快楽に煽られ、溺れていく。
意味のないことに
意味を見出すことが、
俺のような人間の愉しみだ。
不愉快で不可解で不条理で、
いっそ死んでしまいたいくらい
退屈な俺の人生に、
志緒だけが
驚愕と愉悦をもたらしてくれる。
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