ep.01

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車椅子がある。 振り返った視線の先には、乗っている人も、押している人もいない、無人の動かない車椅子がある。到着した時にはそんな物、何処にもなかった筈だ。車輪が転がる耳触りな音と金属が擦れる音を纏い、此方にゆっくりと進んで来る。 車椅子を見つめながら逃げる様に自動ドアに向かって後ずさる。膝が震えているのか足元がおぼつかない。何かにつまづき踵が引っかかりバランスを崩す。後ろに目がある訳ではないのだ。上手く歩けるわけが無い。 突然の事に動揺し後方に倒れそうになったとき 、 「ニャァァオォン…」 猫の鳴き声が聴こえた。トスンっ、と軽い衝撃が背中を押し、俺は前のめりに膝と両腕をついた。 瞬間、肌に感じる場の雰囲気がガラリと変わったのが解る。ねっとり纏わりつく空気が消え、地面には自分の影が見える。 又、助けられた。…ありがとう。心の中で呟く。口元に軽く笑みがもれる。
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