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目線を元に戻すと車椅子は消えていた。
蛍光灯の点滅はおさまり、駐車場は端まで明るくなっている。場内を車が行き交い人の声も聞こえる。
日常が戻ってきた。
「ふぅ~っ、」
息を吐きだし、急ぎ足でエレベーターの乗り口に向かう。
昔見た映画やドラマなら、「主人公は目をこすり2度見する」場面だろうが、あいにく俺は普通の中年だ。
奇跡に感謝しながら途中地上に戻る車を2台見送る。俺も日常に戻ってきた。
戻ってきた?何処から?
「…、異界から」
口にして肩をすくめ少し笑う。自分でもバカげていることはわかるが、今朝は妙な事が多すぎる。
エレベーターホールにたどりつき、上階に上がるボタンを押す。下げたカバンを引き上げ直し、出掛けにプリントアウトした写真を取り出しカバンを閉じる。
プォン
ホールにエレベーター到着の音が響き、背後の寝台専用エレベーターの扉が開く。男性看護師が2人寝台を押して降りてくる。
フロア奥に向かって行く。寝台に横たわった人は…、そう云うことなんだろうと思う。嫌なタイミングにでくわした。
プォン
目の前のエレベーターが軽い音をたてて到着を知らせる。扉が開き、…そして閉まる。
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