ep.01

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今日は早退である。 片道2時間の通勤をこなし、年下の上司とお得意先に頭を下げる毎日。 25年のローンが残った自宅に帰ると、 「睡眠の邪魔だから、リビングのソファベッドで寝てよね」 化粧と脂肪が厚くなった妻に寝室を追い出され、毛布にくるまって寝た結果が風邪である。 手厚い看病をされるでもなく、空になった市販薬を手渡され、症状がよくなるわけもない。 咳き込む私は家族を守るため、果敢に挑戦した。結果は、リクルートスーツの小娘に睨まれ、つま先をヒールで踏まれた。 会社に到着早々に、スマートフォンをいじる入社したての新人に 「うつりそうだから、帰った方がいいんじゃないですか?」 と、あからさまな邪魔者扱いを受けた私は、自宅に帰り保険証を携え、今、病院にいる。 はははっ、ひどいものだ。 温泉で湯あたりした時の様な、フワフワして地に足がつかない感覚。 マスクのせいなのか、鼻づまりのせいなのか息も苦しい。 地下駐車場に車を止め、エレベーターホールに向かう。 ホールには先客がいる。黒のフェイクレザーを着込みずぶ濡れの男。君、風邪をひいてしまうぞ。 男は扉が開いたことにも気付かず、エレベーターに乗り込む様子もない。 そこに立たれると、乗り込め何んですが… 「ゴフッ、すみません、エレベータ乗らないなら…」  
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