7人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
今日は早退である。
片道2時間の通勤をこなし、年下の上司とお得意先に頭を下げる毎日。
25年のローンが残った自宅に帰ると、
「睡眠の邪魔だから、リビングのソファベッドで寝てよね」
化粧と脂肪が厚くなった妻に寝室を追い出され、毛布にくるまって寝た結果が風邪である。
手厚い看病をされるでもなく、空になった市販薬を手渡され、症状がよくなるわけもない。
咳き込む私は家族を守るため、果敢に挑戦した。結果は、リクルートスーツの小娘に睨まれ、つま先をヒールで踏まれた。
会社に到着早々に、スマートフォンをいじる入社したての新人に
「うつりそうだから、帰った方がいいんじゃないですか?」
と、あからさまな邪魔者扱いを受けた私は、自宅に帰り保険証を携え、今、病院にいる。
はははっ、ひどいものだ。
温泉で湯あたりした時の様な、フワフワして地に足がつかない感覚。
マスクのせいなのか、鼻づまりのせいなのか息も苦しい。
地下駐車場に車を止め、エレベーターホールに向かう。
ホールには先客がいる。黒のフェイクレザーを着込みずぶ濡れの男。君、風邪をひいてしまうぞ。
男は扉が開いたことにも気付かず、エレベーターに乗り込む様子もない。
そこに立たれると、乗り込め何んですが…
「ゴフッ、すみません、エレベータ乗らないなら…」
最初のコメントを投稿しよう!