7人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
間近で見るその姿はまさに怪物だ。大きく広げた翼は廊下いっぱいに広がり俺の視界を覆う。
恐怖で一気に感覚が研ぎ澄まされる。思考が加速し、まわりの時間が緩やかに流れていく。
この感覚は久しぶりだ。
体中の血が駆け巡る。
沸騰し蒸発寸前にまで高温になった血が俺の体を巡る。
つま先から頭の天辺まで、幾度もいくども流れ巡る。
何億という細胞が呼吸をするように躍動し、そのすべてを知覚する。
しかし、
いつだって、躰は動かせない…。
すべてを見渡せる俺の視覚は、すべてを覆いつくす黒い怪物で埋め尽くされる。
およそ3メートル、見開いた目で凝視する俺。
あと2メートル、捕食の姿勢を取り鋭い鉤爪が俺に向けられる。
残り1メートル、
「ゴフッ、すみません、エレベータ乗らないなら…」
横からか掛けられた声。瞬間、夢から覚めたように視界が開ける。
最初のコメントを投稿しよう!