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「…御意にございますか」
薄く紅が引かれた小見の方のおちょぼ口から、諦めと妥協の溜め息が漏れた。
「それで殿は、帰蝶をいつ尾張へやるおつもりですか?」
「早くとも来年の正月、遅くとも如月の頃までには尾張へ嫁がせる」
「来年──」
とすれば、少なくとも後数ヶ月の余裕がある。
良かった。
それならば時間をかけて娘の婚礼道具を揃えてやれると、小見は内心ほっとしていた。
「それで、帰蝶は今いずこにおる?」
「奥の自室におりましょう。この時間ですと、ちょうど、字の手習いをしている頃かと」
「行って話して参れ」
小見は「はて?」と小首を傾げる。
「帰蝶のもとへ行って、織田への輿入れの一件を話して参れと申しておる」
「まぁ、私がでございますか」
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