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「何も父親が告げねばならぬという法はない。帰蝶に話し、承知したら、儂の部屋へ連れて参れ」
「もし、承知しなかったら…如何なされまする?」
「否やなど言わせぬ。承知させるのじゃ」
険のある声で、道三は重々しく申し付けた。
夫とはいえ、主君の命を前に “ 出来ない ” などという選択肢はない。
小見の方は複雑そうな表情を浮かべながらも、その頭を垂れる他なかった。
一方、件の帰蝶は、自室の前庭に設けられた広い縁台に出て、空から舞い散る風花と戯れていた。
白く細い両腕を、欄干の向こうにめいいっぱい伸ばして、雪片が肌に触れる感触を楽しんでいる。
時折 大きな風が吹き、縁台の上の彼女を真っ白に包み込んだが、帰蝶はそれすらも楽しいらしく、
お気に入りの綸子の小袖が雪片で濡れるのもお構い無しのようだった。
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