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「そうでございましたか。嫁の私に左様なお心遣いをして下さるとは──。
きっと土田御前様は、母君として、信長殿のことをお愛しく思うておられるのでしょうね」
だったら良いのですが…。
そう呟きそうになるのを千代山はグッと堪えていた。
「恐れながら」
すると控えていた三保野が、やや険のある声で千代山に呼びかけた。
「まことに忝ない御意ながら、姫様のお世話ならば私たちだけで十分にございます。
わさわざ御老女殿のお手を煩(わずら)わせる必要はないかと」
帰蝶は「これ、三保野」と窘めたが、三保野にも専属侍女としての誇りがある。
それは、小見の方の人選によって登用された他の侍女たちも同じ思いだった。
「私が姫君様にお仕えするのは、婚礼の儀が一通り終わるまでの僅かな間でございます。
お方々のお役目を奪うような真似は致しませぬ故、どうぞ、ご安堵召されませ」
千代山は微笑(わら)いながら礼を垂れた。
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