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『 私が今日この城に入ることは信長殿とて知っておろうに…。
いったい、どこで何をなされておいでなのか 』
目通りの席にも顔を出さない信長。
親族すらも荒くれ者と認める信長。
新妻である自分をこんなにも不安にする信長。
まだ彼と直に会っていない為、夫が真のうつけかどうか俄(にわか)に判断は出来なかったが、これだけは帰蝶にも分かっていた。
幼い頃から夢に見ていた自分の晴れの日が、この夫のせいで台無しになりつつあるのだと──。
翌二十四日の未(ひつじ)の刻。
帰蝶は自身の婚礼の式に臨む為、美しい白無垢の姿で奥御殿の居室を出た。
新たに付けられた数十名の婢(はしため)たちが平伏の姿勢で見送る中、
帰蝶は千代山や、三保野ら侍女たちに介添えされながら、しずしずと婚礼の式が執り行われる表御殿へと歩いて行く。
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