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晴れの式への緊張と、信長は戻って来ているのかという心配もあり、帰蝶の心は決して穏やかではなかった。
しかしそこは賢い姫である。
『 こんな時だからこそ自分が一番しっかりしなくては 』
という責任感のような思いもあり、帰蝶はあくまでも毅然とした態度で、目の前の長い渡り廊下を進んで行った。
「──姫君様のお着きにございます」
やがて祝言の儀式が執り行われる部屋に着き、帰蝶は純白の装いの身を、そっと室内に入れていった。
厳格な雰囲気の部屋の上座には、きらびやかな金屏風が広げられ、その手前に高麗縁の畳が二つ向かい合うように置かれている。
その脇には三方、熨斗、三重杯、朱盃などの婚礼道具がずらりと並べられ、如何(いか)にもおめでたい雰囲気が漂っていた。
既に下座には、信秀や土田御前ら織田家の面々が控えている。
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