3325人が本棚に入れています
本棚に追加
彼らが、入って来た帰蝶を黙って迎え入れると
「姫君様。どうぞ、そちらの御畳の方へ」
千代山から、上座に置かれている左側の畳に座るよう促された。
帰蝶は頷くこともせず、静かに左側の畳に歩み寄ると、言われた通りその上に腰を沈めた。
姫の純真な二つの瞳に、もう一方の畳が映る。
そこが新郎たる信長の席であることは分かっていたが、まだ夫の姿はない──。
式の段取り通りならば、信長がその席にやって来るのに合わせて、婚礼の儀式が始まる運びとなっていた。
女房たちの手伝いのもと「式三献の儀」という、所謂(いわゆる)三三九度の固めの儀を行い、
その後 大広間に移って、親族、一門の者たちを集めての祝宴が執り行われる予定なのだ。
だが、昨日のこともあったせいか、帰蝶は安心して信長の訪れを待つことが出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!