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「今日のように寒々とした晴天の日に、ちらちらと舞い降る雪のことにございます」
「なれど雪は雪であろう」
「それは…そうでございますが」
「可笑しなものじゃ。このような小さく冷たい塊を、花に例えるとは」
「姫様。それが人の情緒というものにございますよ」
三保野は懐から袱紗を取り出すと、濡れた帰蝶の小袖を、軽く押さえるようにして拭いてやった。
「ほんに惜しきことにございますな」
「何がじゃ」
「見目麗しく、ご才知にも富んだ姫様でございますのに、このようにお転婆では…」
「仕え甲斐があるであろう?」
「また姫様は。冗談で申しているのではございませぬぞ」
帰蝶は一人くすくすと笑いながら、足早に部屋の中へ入ってゆく。
三保野はすぐにその背を追ったが、彼女の小言は止まらなかった。
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