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だが、そんな帰蝶の評判が家中のみならず民にまで広まるようになると
『 あの道三様の姫君とあれば、さぞや勝ち気で、何にも物怖じしないご性格なんだろうよ 』
『 きっとは殿様に似て、武術にもご造詣が深いのであろう 』
などと、勝手な心象が独り歩きし始めた。
確かに帰蝶は少々お転婆なところはあるが、勝ち気、ましてや何にも物怖じしない性格などではない。
見ず知らずの人間の前では普通に緊張もするし、ネズミ一匹死んでいるのを見ただけでも慌ててしまう。
武術よりも、庭の花を眺めたり、物語を読んで空想を膨らませたりする方がずっと好きだった。
「喜平次、孫四郎という弟たち。母は異なれど義龍の兄上もいるというのに、何故こうも私ばかりが父上様と重ねて見られるのであろう」
部屋の上座に腰を下ろしながら、帰蝶は気鬱そうに呟く。
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