風花

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「それは姫様が深窓(しんそう)のお方だからでございましょう」 「 ? 」 「兄上様や弟君様とは違い、姫様は常に城の奥におわし、(おもて)の方々とのご対面も数える程。 これでは誰も、姫様の本当のご気性を知り得る事など出来ませぬ。 (ゆえ)に民たちも、殿のお人柄から、姫様の人となりをご推知なされようとしているのでしょう」 「…そうなのであろうか ?」 「ええ、きっと。不明確な事に程、人は想像を()き立てられるものですから」 三保野に説かれ、帰蝶は完全に納得していないながらも 「そなたがそう言うのならば──そういう事にしておこうか」 と、心持ち(あご)を引いて小さく笑った。 するとその時。 部屋の前に小見の方付きの侍女・笠松(かさまつ)がやって来て、慇懃(いんぎん)(ぬか)づいた。 「申し上げます。姫様、お方様(かたさま)のお成りにございます」 「まぁ、母上様が」
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