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「母上様。畏れながら父上様は、如何なる思いから私を尾張へ嫁がせようと?」
「それは無論 尾張と和睦を結び、今川ら東国との戦に備えるためでしょう。
織田の勢力は著しき成長を遂げている故、同盟を結んでおいて損はないと、そう仰せでした」
「まことに…それだけでしょうか」
訝しそうに目を細める帰蝶を見て、小見の方はふふっと上品に笑った。
「私も先程、今のあなたと同じ事を殿に伺ったのですよ」
「母上様も──。それで、父上様は何と?」
「それ以外に他意はないと仰せでした」
母の返答に、張っていた帰蝶の肩から思わず力が抜けた。
だがそれでは腑に落ちない。
そう言いたげな顔をして、帰蝶は小見の方に向けていた視線を膝元に移した。
「どうやら姫は、殿のご説明では得心がいかぬようじゃのう?」
「いえ…決してそういう訳では」
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