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「ご才知優れたるは良き事なれど、左様にあれこれと深く考え過ぎるのは悪い癖じゃ。
とかく姫は一つのことに興味を持つと、底を知らぬように夢中になるのですから」
呆れたように小見の方が首を振ると
「ご容赦下さいませ。隣国に嫁ぐのですから、そこにどのような父上様の思惑が潜んでいるのか、知っておきたくて」
帰蝶は笑顔を覗かせつつ、申し訳なさそうに一礼を垂れた。
だがその瞬間、小見の方の面差しに驚きの色が滲んだ。
「帰蝶…。ではあなた、尾張への輿入れに否やはないのですね?」
「父上様のお決めになられた事に、何故否やなど申せましょうか」
帰蝶は当たり前のように答えた。
父の言う事、決めた事は絶対。
結婚相手とてまた然り。
幼い頃からそう教えられて育った帰蝶の頭の中に、縁組を拒絶するという考えは初めからなかった。
不安や躊躇いは勿論あるものの、それを表には出さず、常に慎ましやかである事が姫君の心得なのである。
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