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「でしたらその旨、直に殿へお伝えあそばされませ。あなたが縁組を承諾したら、殿の部屋へ連れて参るよう申しつかっております故」
小見の方が促すと、帰蝶はさっと畳に三つ指をついた。
「承知致しました──。どうぞ母上様は、御座所へお戻りになられて、お身体をお癒し下さいませ」
「それはなりませぬ。そなたを殿の元へお連れせねば」
「もう幼子ではないのですから、父上様のお部屋へくらい一人で参れまする」
「じゃが…」
「父上様と二人きりで話したい事もございます故、母上様はどうぞ、お部屋へ」
帰蝶の勧めに、やおら小見の方はふーっと細い息を吐くと、それ以上問答する必要もなしと見て
「では、後はよしなに」
と、後事を三保野らに託し、笠松と共に部屋から出て行った。
帰蝶もすかさず部屋の入側に出ると、去ってゆく母の背が廊下の奥に消えるまで長々と見送っていた。
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