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そんな帰蝶の耳に
パタ…パタパタ……
と、小鳥が必死で翼を羽ばたかせているような、小さな物音が聞こえて来た。
帰蝶はその音がどこから響いているのかと思い、前後左右を見回してみる。
すると前庭の植え込みの陰から、一羽のメジロが、ひょこっとその愛らしい顔を出した。
どこかで怪我をしたのか、メジロの片翼からは血が滲み出ている。
メジロはもう片方の翼を必死に動かして、何とか飛ぼうとしているが、どうにも上手くいかない様子であった。
「何と難儀なこと…」
帰蝶はそれを哀れに思ったのか、すぐにメジロを手当てしてやろうと前庭へ降りた。
だがその瞬間。
一匹の縞模様の猫が跳ねるように飛び出して来て、帰蝶の目の前を右から左へと駆け抜けていった。
それは、道三が子猫の頃から可愛がっている『 茶々丸 』という飼い猫であった。
茶々丸の急な出現に、帰蝶は「きゃ!」と娘らしい叫び声を上げて、一瞬目を伏せた。
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