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「殿。万が一にも、うつけ故に、信長殿がご廃嫡の憂き目にお合いになられたら如何なされまする?
そのような事にでもなれば、この同盟にも大きな揺らぎが生じ、人質たる姫様の御身も危うくさせることに…」
「左様な懸念は無用じゃ、道空」
道三は相手の言葉を遮り、鏡のように磨き上げられた刀越しに道空を見据えた。
「尾張の虎も阿呆ぉではない。信長に何の見込みもなければ、とうの昔に英邁と名高き弟の信勝殿に跡継ぎの座を譲っておろう」
「しかしながらそれは…」
「それに、うつけならうつけで好都合じゃ。いや寧ろ、うつけであった方が、いざという時に帰蝶を取り戻し易いやもしれぬ」
刀を鞘に納めつつ、道三が含み笑いを浮かべていると
「──父上様。只今まかりこしました」
帰蝶が華やかな笑顔を湛えながら、ゆっくりと部屋の中へ入って来た。
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