3323人が本棚に入れています
本棚に追加
「おお、参ったか。 …道空、暫し下がっておれ」
「ははっ」
「それと、者共に命じて帰蝶の婚礼道具の手配をさせておくよう。くれぐれも手抜かりのなきようにな」
「承知致しました」
道空は一礼を垂れると、速やかにその場を辞した。
部屋の戸襖がパタンっと音を立てて閉まると
「帰蝶、それへ控えよ」
道三は顎を一回くいっと突き出して、下段に控えるよう促した。
帰蝶は道空が座っていた場所よりも、少し上段に近い位置に膝を折ると、淑やかに会釈した。
「母上様より粗方の事情は伺いました」
「…ここへ参ったという事は、無論、尾張へ嫁ぐ覚悟が出来ているという事であろうな?」
父の問いかけに、帰蝶は目で頷いた。
「尾張へ嫁に参る事が父上様の御意とあらば、私はそれに黙って従うまでにございます」
「うむ。よう言うた」
道三も我が意を得たりと満足そうに頷く。
最初のコメントを投稿しよう!