蝮の衷心

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「おお、参ったか。 …道空、(しば)し下がっておれ」 「ははっ」 「それと、者共(ものども)に命じて帰蝶の婚礼道具の手配をさせておくよう。くれぐれも手抜かりのなきようにな」 「承知致しました」 道空は一礼を垂れると、速やかにその場を()した。 部屋の戸襖がパタンっと音を立てて閉まると 「帰蝶、それへ控えよ」 道三は顎を一回くいっと突き出して、下段に控えるよう(うなが)した。 帰蝶は道空が座っていた場所よりも、少し上段に近い位置に(ひざ)を折ると、(しと)やかに会釈した。 「母上様より粗方(あらかた)の事情は伺いました」 「…ここへ参ったという事は、無論、尾張へ嫁ぐ覚悟が出来ているという事であろうな?」 父の問いかけに、帰蝶は目で(うなず)いた。 「尾張へ嫁に参る事が父上様の御意(ぎょい)とあらば、私はそれに黙って従うまでにございます」 「うむ。よう言うた」 道三も我が意を得たりと満足そうに頷く。
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