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『馬鹿な!』と叫びそうになるのを、信長は必死で飲み込んだ。
本来ならば実家を第一と考えて、密かに婚家の情報を伝え、何か事が起こった時には全力で実家の為に動くのが、この戦乱の世の奥方の常なのである。
特に濃姫のように敵国から嫁いで来た女性ならば、それこそ間者のようなもの。
実家を守りはしても、捨てることなど容易には出来ないはずである。
にも関わらず、斎藤家を捨てると言い切った濃姫の心が、信長にはまるで分からなかった。
「…解せぬ…。…そなたは、己の生家よりも、儂の信頼を得る方が大切だと申すのか !?」
「はい。──まぁ、そういうことになりましょうな」
首肯する濃姫の面差しに、清々しい程の笑みが綻ぶ。
「何故じゃ」
「 ? 」
「たかが儂ごとき男の為に、何故そのような…」
「何故か──そうでございますね」
濃姫はふと考え込むと、今度は可笑しそうに破顔した。
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