嵐の後

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「いや、儂の夢はもっと壮大じゃ。日の本は広い。じゃが大海原の向こうには更に大きな世界が広がっておるのだ。 儂はその世界が見たい…いつかこの手の中におさめてみたいのじゃ。この国の天下など、それを得る為の足掛かりに過ぎぬ」 濃姫は言葉も出なかった。 まだ十六の若き夫が、日本のみならず、見たこともない外の世界にまで目を向けているのだ。 『 やはり殿は面白い──。私の予想など軽々と飛び越えてしまう 』 『 この日の本で天下を取るのも困難であると申すに、よもや世界とは 』 良い大人が聞いたら笑い飛ばされそうな話だが、濃姫はあくまでも真摯に、彼の夢を受け止めていた。 それは齢十五の娘が持つ純真な幼心故かもしれないが、それでも決して不可能な夢だとは思わなかった。 信長だからこそ出来る。 信長だからこそ成し遂げられる。 確証はまるでないにも関わらず、姫の心の中は夫への期待と信頼とで溢れていた。
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