風花

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美濃(みの)国 稲葉山城主・斎藤道三(さいとうどうさん)が、正室・小見(おみ)(かた)に娘の運命を告げたのは、天文十七年( 1548 )の師走(しわす)上旬。 澄み切った晴天の空に風花(かざはな)の舞い散る、寒々とした午後のことだった。 「輿入(こしい)れ──。今、帰蝶(きちょう)の輿入れと申されましたか?」 稲葉山城の一室。 白い細面(ほそおもて)怪訝(けげん)そうに(ゆが)める小見の方を前に、道三は静かに首肯した。 「先達(せんだ)て、織田家の家老・平手政秀より、内々に縁組の申し入れがあってのう」 「織田…」 その二文字を聞いた瞬間、小見の方の相貌(そうぼう)の歪みが更に増した。 「まさか殿(との)は…あの信長殿に、帰蝶を差し出すおつもりでございますか !?」 「いかにも。あの信長にだ」 やや(しわが)れた太い声で、道三は重々しく、だがさらりと答えた。
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