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織田家の信長といえば、隣国の尾張を治める武将・織田信秀の嫡男である。
僅か二歳にして那古屋城の主となった彼は、ちょうど一昨年前、
古渡城にて元服の儀を受けたばかりの、数え十五の若人であった。
かたや、帰蝶と呼ばれる道三夫妻の愛娘は、天文四年(1535)生まれの十四歳。
政略結婚とはいえ、一つ違いで、尚且つ隣国きっての実力者の嫡男への輿入れである。
事情を知らない人間からすれば、またとない良き縁談のようにも思えるだろう。
だが、小見の方の狼狽しきった表情がそれを真っ向から否定していた。
「よりにもよって…よりにもよって」
と、まるで譫言のように独りごちた後、小見の方は憂いを帯びた双眼を道三に向けた。
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