風花

4/20
3294人が本棚に入れています
本棚に追加
/1822ページ
「織田家の信長殿といえば、“ 尾張の大うつけ ” と(あざけ)られるお方。 那古屋城主とは思えぬような異様な風体の上、粗暴な振る舞いが絶えず家臣たちも皆手を焼いているとか? そのようなお方に帰蝶を嫁がせて、本当に良いものでございましょうやら」 不安そうに眉をひそめる妻を見て、道三はその(あぶら)ぎった(おもて)に、深い笑い(じわ)を寄せた。 「案ずるには及ばぬ。うつけとは申せ、おなごの帰蝶に…ましてや、この(わし)の娘に手をかけるような愚かな真似はすまい」 「いくら “ 美濃の(まむし)” と恐れられる殿でも、相手は大うつけ。左様な理屈が通じる相手ではございますまい」 「それでもいずれは織田家の当主となる男じゃ。 織田と同盟を結べば、長らく続いてきた尾張との小競り合いから解放される上、 駿河・遠江(とおとうみ)今川義元(いまがわよしもと)ら、東国の勢いを(おさ)えることも夢ではなかろう」 「……」
/1822ページ

最初のコメントを投稿しよう!