風花

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「それにここ何年かで、織田の勢力は急成長を遂げておる。同盟(どうめい)を結んでおいて損はない」 「(おそ)れながら──まことに、それだけなのでございますか?」 「他意(たい)があると申すのか」 「他意があるかどうかも、小見には分かり()ねまする」 長山城主・明智光継の娘として生まれ、道三の三度目の妻の座についてから数十年あまり()つが、 小見の方には一度として、この夫の考えを読めた試しがなかった。 僧侶(そうりょ)から油商人を経て戦国大名に上り詰めた、まさに下克上(げこくじょう)の苦労人なだけに、 腹の底に抱えた一物の上には、常に黒い幕を(おお)(かぶ)せているようであった。 「安堵(あんど)致せ。例え他の企みがあったとしても、それで帰蝶が傷付くことはない。絶対にな」 「その(こと)()を、信じてよろしいのですね?」 小見の方の問いに、道三は無言をもって答えた。
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