掌の宝物

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「ふふ、あなたも泣くの?」  ころころと笑う祖母の指につけられた指輪がきらりと光る。 「きらきらついてなくて悪いの」  ぽつり、と呟かれた言葉に祖母は目を丸くした。体を縮めて、寂しそうな相手の肩に彼女は頭をこてん、と乗せる。 「私は十分、きらきらもらえたからいいんですよ」 「そうか」 「ええ、私の宝物です」  寄り添って並ぶ二人は、さくらんぼの木を見上げる。風に揺れる緑と赤がとても眩しかった。  少女の母親が、おやつを準備したと声を響かせる。息子がお土産に持ってきてくれた甘くて美味しい羊羮だろう。  すでにお茶は空になっている。縁側に並んでいた二人は、ゆっくり立ち上がると手を繋ぐ。久しぶりに繋ぐ温かさは、くすぐったくて口元を綻ばせた。  手に触れた金属の感触に、幸せな気持ちになる。恋をして、愛した相手があなたでよかった、と心の中でお互いに呟いた。
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