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聞こえるのは、声。
「昂介……」
優しい声。
「昂介……」
柔らかな声。
「お母さん……」
伸ばし、繋がるのは、細い指。
「お母さんは、昂介がいるから安心よ」
俺がその言葉に対するのは……沈黙だ。
「妹たちのこと、守ってあげてね」
俺の傍ら━━母さんに伸ばした反対の手に繋がってるのは、俺よりももっと小さな手。
「………………」
彼女は、俺が手を繋いでいる意味すら、わかってはいないだろう。
ただ不思議そうな表情で、ベッドの上の母さんを見つめているだけ。
「絶対に、手を放しちゃダメよ……」
俺は、沈黙を守るだけ。
歯を食いしばっていなければ、その場で泣き出してしまいそうだから。
その場で声を上げて大声で迷惑も考えずに泣き出してしまいそうだから。
だからただ、うなずきをもって、言葉の代わりにするのが精一杯。
「……ありがとう、昂介」
そして……
あの日、俺は母さんと約束したんだ。
何があっても、妹たち━━妹と、父さんを守るんだって。
握った手を、放さないんだって。
そう決めたのに、俺は━━
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