職人

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従順に動く。 教えられた事を ただ淡々と続け伝えるのが 職人って奴さ…。 い草の匂い立ち込める 古い社屋の二階から 「料亭の女将さんから  畳の修理の依頼がきましたよ!」 昌子は電話を切り帳簿と睨めっこしながら 作業場に届く声で叫ぶと 「オヤジの客だ!  デスクに注文書投げといてくれや!  あと料亭には新しい畳のチラシ送っといて!」 二代目の面倒臭そうな叫び声が帰ってくる。 畳を作る機械が動く音は止まらない。 今日の夜中までには居酒屋から 受けた大量の発注分を 作り上げなければならないらしい。 「この忙しいのにオヤジは  何処ほっつき歩いてんだか!」 機械音に二代目のぼやきが混ざり込んだ。 「御義父さんとはパチンコ屋の前で会ったけど  口止めに珈琲を奢って貰ったから  言えないのよね」 昌子は呟きながら事務所の奥の 古い三畳間に向かう。 真ん中のちゃぶ台に注文書を置き 横で眠る我が娘の寝相を直す。 娘のホッペには畳の跡がしっかりと残り 畳には娘の涎の跡がしっかりと残っていた。 「家で寝かせると直ぐ愚図るのに  ホント、畳が大好きでちゅねー」 ホッペをプニプニ押していると 足早に階段を上がる音が響いてくる。 二代目が作業場から上がって来たようだ。 「昌子、悪い。夜の店番頼むな。  人手が居るから夜間バイトも連れてく」 へいへいと返事をしながら 事務所に戻ると 出しっぱなしの麦茶が残されていた。 機械音がまた聞こえ始める。 「娘の顔くらい見ていけばいいのに」 昌子は、軽く溜め息を尽きながら 帳簿との闘いを再開した。 慣れ親しんだ私達の日常である。
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