1人が本棚に入れています
本棚に追加
18時が僕の定時で、その時間が過ぎると待ちに待った自由時間であります。
カフェは24時までやっているのですが、お客さんは意外と多くて、僕が座る席はないこともおおいのですが、少し隅の席は窓から見える景色も見えにくいためあまり座る人がいないのです。僕は心の中では特等席と呼んでます。
そこで僕は必ずホットミルクとクロワッサンを頼んで、23時くらいに帰ります。
この組み合わせは残るようになってからこの組み合わせなんです。
バイトを始めた当初、指導役の先輩の動きを見ようと思ってこっそり残ってたら、パン担当の黒澤さんが後ろから「これね、新商品だよ。」ってクロワッサンを味見させてくれたんです。
あ、黒澤さんはここでもう20年くらい働いているベテランパン職人さんで、店長の古くからのお友達なんだそうです。
すごく良くしてくれる人で、まだ日の浅かった僕が裏口で落ち込んでると、「これさ、形少し悪いから出せないんだけど、食べてみちゃう?」と言ってこっそりパンをくれたんです。
でもですね、そのパンは明らかに失敗してないんです。僕は知っていたんです。売れ切れた新商品のクロワッサンだってことを。僕の分を黒澤さんは取っておいてくれたということを。
クロワッサンを食べると、その時のことを思い出して少し泣きたくなる衝動に襲われるんですが、それと同時に、黒澤さんの優しさを感じることのできるあったかいその味に癒されながら食べるんです。
ホットミルクは、何となく、癒されそうな飲み物だなって思って頼んでいます。猫舌だけど、僕はその組み合わせで一日のリセットをするんです。
時刻は19時、ぼんやりと見ていた僕の視界に信号待ちをしている一人のおばあちゃんが入ってきました。夜になっても比較的明るい大通りなので、この時間にも映える花柄模様のセーターが特徴的な腰の曲がったおばあちゃんは、景色が見えにくい僕の席からも確認できました。
結構遅い時間帯なのに、信号が青になると、おばあちゃんの押していた手押し車っていうんですかね、よく年配の方が押している四輪のキャリーバックみたいな、あれが道路と道路の境目にタイヤを挟めたみたいで動けなくなっていました。僕は「あ。」と声を漏らしたのですが、助けに行くという思考にはなりませんでした。何故だろうか、その様子をじっと見ていることしかできませんでした。
最初のコメントを投稿しよう!