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その時向かいから来たスーツを着た一人の男性がおばあちゃんの横を携帯電話を片手に足早に横切ってきました。「あ。」ぶつかっていないかと、少し身を乗り出しそうになった時、彼と目が合いました。窓ガラス越しだったのもあり、しかもにわか雨のせいで曇ってるし、彼から僕の姿は見えてないと思ったのですが、僕の目に彼の目の色が少し青みがかっているのが確認できました。頭は悪いですが、視力には自信があるんです。ホットミルクの入ったあったかいカップを両手に持ったまま、僕は彼をじっと見ました。
すると彼は少しだけ後ろを振り向き、先程のおばあちゃんに近づき何かを言いながら挟まったタイヤを外してあげていました。助けた後は軽く会釈をして、再び携帯電話で話し始めました。何か謝っているような動作もしていて、咄嗟に話さなくなったから相手びっくりしたのかな、こんな遅くまで営業とか大変だな、などと予想をしたりもしました。
その人はお店とは逆方向に向かって行き、おばあちゃんはゆっくり信号を渡っていたので、僕はその様子を再びじっと見ていました。僕はあんな風にはなれない、僕はきっとそっち側の人間になんてなれない。でも、もし僕が同じ状況だったらと、今みたいにただ見てることしかできないんだろうなと、そんな思いを巡らせながら、僕はクロワッサンを軽く頬張った。
僕が彼と出会ったのは、いや、僕が一方的に彼を知ったのはこの瞬間だった。
to be continued...
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