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今日もこの場所に来て、もう何時間になるだろう。
僕は、君が来てくれるのをこの防波堤でずっと待っていた。
引き潮に揺れる海、肌をくすぐる潮風、赤ん坊の寝息のような波音、
そして沈みかけが反射して達磨の形になって長く伸びる夕陽。
あと1時間、あと1時間と待ちつづけて、時計の針はもう6を差している。
………半ば、もう会えないというのは覚悟していた。
一ヶ月前、最後に君に会ってから、僕の心が完全に君に奪われてしまったあの日から、
とんと君は顔をみせなくなった。しかも、僕に一言も告げずに。
あれだけ相性が良かった筈の僕らの距離は、知らず知らずのうちに広がってしまっていた。
二日三日と会えない日が続いて、「一体どこにいってしまったのだろう」と考えると、夜も眠れない日が続いた。
………僕はじき、この街を出る。
今よりもっと大きな夢を求めて、世界へ旅立つ。
ただし、一人で。誰も連れていくことはできない。
本当は、未練が残るのが嫌で、僕が意図的に避けたのかも知れない。
君を感じることの心地よさを覚えることで、この土地への名残惜しさを感じたくなかったのかも知れない。
だが、それでも、一度でいいから、最後にもう一度君の顔が見たい。やっぱり、旅立つ前に会っておきたい。
ここにいれば必ず君に、もう一度出会えると聞いて、いても立ってもいられず朝一番の電車に乗った。
高鳴る胸、熱くほてる体をなんとか自分の中で丸め込んで、最後の一日を君に賭ける。
何で君が僕の前から消えたのか知りたい。
そして………僕がこれからどうしたいのか………
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