11月25日

2/17
前へ
/205ページ
次へ
3ヶ月前の11月25日。あの日は、寒波が押し寄せていて一際寒かった。 「さっむ」 全ての講義を終えた夕方、オレはまっすぐにSへ帰宅した。帰ったら温かいコーヒーでも飲もう……そんなことを考えながら。 Sにたどり着き、玄関の扉を開けた。靴を脱いでいると、リビングの方向から聞こえてきた声。 「えー、今月足りなくってぇ……」 ねっとりとした甲高い声の主は、芽衣子だ。 リビングを覗くと、室内には芽衣子と琉偉さんが睨み合っている。その2人の様子を、将勝さんと佳穂さんが見ていた。 「足りなくても払って。払えないなら荷物まとめて出てって」 冷めた目つきの琉偉さんが玄関の方を指差しながら言う。 「どうしたんスか」 佳穂さんに近づき、こそっと訊ねた。 「いつものことだよ。また芽衣子が家賃払わなかったの」 「あぁ、またっスか」 このSの所有者は琉偉さんの親であり、毎月の家賃は琉偉さんが回収して管理していた。でも、芽衣子は必ずと言って良いほど支払いが遅れるんだ。 芽衣子は自分の髪を弄りながら口を尖らせる。と、その時、リビングの入り口から奏が現れた。 「あ、奏!いいところにきたー」 芽衣子が笑顔で奏に飛び付き、奏の両肩を掴んで琉偉さんの方へ向かせる。 「琉偉さん、奏が芽衣の家賃を代わりに払いまぁす」 芽衣子の言葉に、奏は眉を寄せている。今しがた現れた奏には、何の話だかさっぱりわからない様子だ。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

738人が本棚に入れています
本棚に追加