738人が本棚に入れています
本棚に追加
3ヶ月前の11月25日。あの日は、寒波が押し寄せていて一際寒かった。
「さっむ」
全ての講義を終えた夕方、オレはまっすぐにSへ帰宅した。帰ったら温かいコーヒーでも飲もう……そんなことを考えながら。
Sにたどり着き、玄関の扉を開けた。靴を脱いでいると、リビングの方向から聞こえてきた声。
「えー、今月足りなくってぇ……」
ねっとりとした甲高い声の主は、芽衣子だ。
リビングを覗くと、室内には芽衣子と琉偉さんが睨み合っている。その2人の様子を、将勝さんと佳穂さんが見ていた。
「足りなくても払って。払えないなら荷物まとめて出てって」
冷めた目つきの琉偉さんが玄関の方を指差しながら言う。
「どうしたんスか」
佳穂さんに近づき、こそっと訊ねた。
「いつものことだよ。また芽衣子が家賃払わなかったの」
「あぁ、またっスか」
このSの所有者は琉偉さんの親であり、毎月の家賃は琉偉さんが回収して管理していた。でも、芽衣子は必ずと言って良いほど支払いが遅れるんだ。
芽衣子は自分の髪を弄りながら口を尖らせる。と、その時、リビングの入り口から奏が現れた。
「あ、奏!いいところにきたー」
芽衣子が笑顔で奏に飛び付き、奏の両肩を掴んで琉偉さんの方へ向かせる。
「琉偉さん、奏が芽衣の家賃を代わりに払いまぁす」
芽衣子の言葉に、奏は眉を寄せている。今しがた現れた奏には、何の話だかさっぱりわからない様子だ。
最初のコメントを投稿しよう!