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調理を終え、テーブルに6人分の料理を並べる。奏だけは自室で食べたがるから、いつも通り1人分はキッチンに置いておいた。
夕飯を食べて片付けた後、リビングに残っているのは、佳穂さん、琉偉さん、将勝さん、芽衣子、オレの5人だけだった。
透哉さんは夕食をたらふく食べて「眠い」と自室に入ってしまったし、奏は夕食を取りに来て以降現れていない。
「紗瑛、遅いな。明日の講義のレジュメ確認したかったんだけど」
紗瑛さんと同学部の佳穂さんが、スマホを見ながらため息をつく。もう時間はすでに23時半を過ぎていた。
いつもは22時半には帰ってきている紗瑛さんが、この時間まで帰ってこないなんて……あまりにも遅すぎる。
「オレ、電話してみますよ」
流石に心配になって、オレは紗瑛さんに電話をかけた。応答があったのは、何コールかの後。
「もしもし」
「あ、紗瑛さん。今どこです?」
「ちょうど電話しようと思ってたの。……今ね、旧時計塔校舎にいるんだ」
紗瑛さんの声には抑揚がなく、淡々とした返答だった。
旧時計塔校舎って……大学のあの旧時計塔校舎だよな?どうしてこんな夜に、そんなところに?
その疑問を口に出す前に、紗瑛さんが言葉を重ねた。
「今からみんなも来てくれないかな。旧時計塔校舎の屋上。思い出深いところだよね、みんなにとっても」
電話口で、フフっと笑う声が聞こえた。
含みを見せるその言い方に、ぞくりと背筋が凍る。
「待ってるから、みんなで来て。この場所の意味、わかるでしょう」
その声を最後に、電話は切れた。オレはスマホを耳に当てたまま、指先ひとつ動かせず。
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