11月25日

5/17

678人が本棚に入れています
本棚に追加
/205ページ
「どしたの、優飛」 電話を握りしめたまま硬直するオレに、佳穂さんが机に頬杖をつきながら怪訝な顔を向ける。 リビングにいた全員に紗瑛さんの言葉を伝える。すると、 「旧時計塔校舎……」 全員の顔が瞬時に凍りついた。当たり前だ、オレ達にとってその場所は一番恐ろしく、そして忘れがたい場所だから。 旧時計塔校舎から飛び降りて自殺した樹。その死がよぎり、Sの秘密が漏れてしまっているかもしれない不安にかられた。 「何事ですか……?」 リビングの入り口で、奏が立っていた。尋常じゃない空気を感じ取ったのか、珍しくオレ達に声をかけてきたんだ。 オレが奏に事の経緯(いきさつ)を説明する傍ら、将勝さんが立ち上がった。 「とにかく、旧時計塔校舎に向かおうか。僕は透哉を起こしてから向かうから、みんなは先に行っておいてくれる?」 コートを羽織ってオレ達が外に出たのは、ちょうど日付が変わる頃だった。 琉偉さん、芽衣子、奏、オレが順に暗い顔で外に出たのち、最後に佳穂さんが玄関をでる。その背後で、扉が閉まる直前に将勝さんが透哉さんを起こしに階段をあがっていくのが見えた。 夜中ということもあって、大学構内は静まり返っていた。ポツポツと研究室の明かりはついているけれど、道には誰もいない。 オレ達は、旧時計塔校舎へ向かって足を進めた。 「優飛、どの窓が開いてるんだっけ?」 旧時計塔校舎の裏手に回ったところで琉偉さんがオレを見る。旧時計塔校舎は基本的に終日施錠されている。ただ一つ、鍵が壊れてしまっている窓以外は。 唯一の侵入経路である窓から校舎内に入り、順に階段を上っていく。 「紗瑛さん、樹のこと知ってるんじゃないですかねぇ?」 芽衣子が小さな声で琉偉さんに声をかける。だけど、琉偉さんは「うーん」と唸るだけ。それはそうだ、その真相を知っているのは紗瑛さんだけなんだから。 だけど、芽衣子は不安でたまらない様子で、「どうするんですか、問い詰められたらぁ」と琉偉さんの袖を引っ張っていた。 「わかんない。とりあえず、話聞きに行こ」 琉偉さんが短く答えた時、ようやく屋上へつながるバルコニーへ到達した。そこを抜けて屋上に着くと、一つの影が空を見上げながら佇んでいた。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

678人が本棚に入れています
本棚に追加