677人が本棚に入れています
本棚に追加
/205ページ
「みんな、そろったね」
旧時計塔の屋上、遅れてきた将勝さんと透哉さんがスマホのライトをかざしながら現れた後、ようやく紗瑛さんが声を発した。
屋上の淵近くに立つ紗瑛さんに対し、他の7人は屋上入口で足を止めたまま。向き合う形で紗瑛さんの言葉を待つ。
「夜遅くに、こんなところに呼び出してごめんね。でも、みんなとはココで話したかったんだ」
紗瑛さんが、オレ達の顔を順番に見つめながら笑う。
「なんなんだよ、紗瑛。こんな夜中に呼び出しやがって」
眠りを妨げられて不機嫌な透哉さんが、顔をしかめながら声を荒げる。
「ここから落ちた人のこと、忘れてないよね? 藤岡樹……去年まで、みんなと一緒にSに暮らしてた男の子だよ」
その言葉で、紗瑛さん以外の全員の顔が凍り付いた。
「……もちろん覚えているよ。樹はシェアメイトだったから」
将勝さんがポーカーフェイスで笑って見せた。その将勝さんの笑顔に、紗瑛さんも柔らかい笑みを返す。
「そう、よかった。みんながあまりにも普通に生活しているから、忘れちゃったのかと思ったよ。私の従弟のこと」
「い、いとこ……?」
芽衣子がぎょっとしてつぶやく。他の誰もが、芽衣子と同じように驚きの表情を見せていた。もちろん、オレも。
「知らないよね、そんなこと。この広い大学内のことだもの。誰と誰が親戚関係かなんて、わざわざ話すこともないしさ」
最初のコメントを投稿しよう!