11月25日

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「樹は、私のたった1人の従弟。兄弟のいない私には、可愛い弟みたいな存在だったの。同じ大学に合格できたって喜んでいたのが懐かしいな」 思い出をめぐるように、紗瑛さんが目を細めていう。そして次の瞬間、 「でも、あの子死んじゃったんだよね。みんなのせいで」 その顔が、突如として修羅に変わった。 「どうして見捨てたの?」 誰1人、紗瑛さんのその問いには答えない。しばらくして、透哉さんが口を開いた。 「……見捨てたってなんだよ」 激しく曇る、透哉さんの顔。 「樹はすごく苦しんでた。樹が死んだのは、みんなのせいなんだよ」 紗瑛さんが、目に涙を溜めながら言う。しばしの沈黙のあと、将勝さんが静かに口を開いた。 「紗瑛ちゃん、何か勘違いしていない?樹は自殺したんだよ。それを僕達のせいにするのは横暴じゃないかな」 「真夜中の轢き逃げ。高齢男性死亡……この事故、みんな知ってるよね」 紗瑛さんのその言葉に、将勝さんも動きを止める。将勝さんだけじゃない。全員がその場に硬直していた。 何故、紗瑛さんがあの事故のことを知っているんだ?いや、知っているのは当たり前か、当時ニュースにもなったんだから。 問題は、何故紗瑛さんがオレ達にその話をするのか。 オレ達のそんな疑問を感じ取ったらしい紗瑛さんが、カバンの中から1冊のノートを取り出した。青い表紙の大学ノートだ。 「樹は、このノートに全部書き残して死んだの。ここに全部書いてある」 その言葉に、オレは頬に汗が流れるのを感じた。あの事故の詳細が、全てそのノートに記されている? 樹がそんなノートを遺していることは全く知らなかった。樹の死後、警察が検証をしていたけれど、遺書らしきものはなにも残っていなかったと聞いていたから。 紗瑛さんがどこでそのノートを入手したのか、オレにはわからない。だけど、紗瑛さんはそれによって、あの日の全てを知ってしまったんだ。
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