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「言っとくけどな、事故を起こしたときに運転してたのは樹だぞ!その罪悪感で自殺するなら、自業自得だろうが!」
透哉さんが、凄んで見せた。
「みんなが奏ちゃんに運転を強要したからでしょう?それを庇って樹が運転した。そうじゃなきゃ、あの気弱な樹が飲酒運転なんて絶対しなかった。そもそも、未成年なのにお酒を飲むような子じゃなかったし」
「うるせぇな!事故を起こした樹が全部悪いんだよ!むしろ俺らは巻き込まれたんだからな」
「……そんな風に考えてるんだ」
諦めたように、紗瑛さんがため息をつく。
「私からお願いがあるの。みんなの罪を、ありのままに自供してほしい。樹は死んでしまって、罪を償えないから」
飲酒運転を教唆した事、その車に同乗した事、琉偉さんに至っては車を提供した事……それらを全て世に明かせと。紗瑛さんはそれをオレ達に求めてきた。
「でないと、私はこの事実をSNSで公開する」
紗瑛さんが、スマホの画面をかざして見せた。その画面には、ボイスレコーダーのアプリが起動されていて、先ほどの会話音声が流れた。
全ての会話を紗瑛さんに録音されたんだ。
「録音した内容、全部拡散するよ。みんなの実名と一緒に」
オレ達をキッと睨み、声を荒げる紗瑛さん。いつも優しく微笑んでいた彼女が、こんなにも強い目をしているのは見たことがない。
「私も本当はこんなことしたくない。だけど、それじゃ樹が浮かばれないの。それに、みんなだって本当は心の中で引っかかってるんでしょう?後ろめたい気持ちのまま生きていくなんて辛いじゃない……これは、みんなのためでもあるんだよ」
紗瑛さんが訴えかけるようにオレ達をみる。
「……もう限界」
オレの横で、佳穂さんがボソッと呟いた。
佳穂さんが、屋上の出入り口の方へと歩いていく。そして、ブルーシートからはみ出していた単管パイプを手にとった。
「紗瑛、大人しくスマホ渡してよ」
佳穂さんがパイプの先を紗瑛さんに向けながら、彼女に近づいていく。脅しとも取れるその行動に、紗瑛さんの顔が警戒の色を見せる。
「これ以上、罪を増やすの?佳穂」
「アンタのせいでね」
「佳穂ならわかるでしょ?このまま影を背負っていくのは無理だよ。佳穂は、曲がった事が嫌いだもの」
その瞬間、佳穂さんの目が鋭く光った。
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