11月25日

10/17
673人が本棚に入れています
本棚に追加
/205ページ
「ひっ!」 芽衣子のひきつった声が聞こえた。琉偉さんが紗瑛さんを突き落とした……その迷いない行動に、思わず声が漏れた様子だった。 「あれ?」 琉偉さんが、下をのぞき込みながら首を傾げた。 屋上の淵に、かろうじて紗瑛さんが手をかけてぶら下がっている。彼女の命をつないでいるのは、か細い右手1本だけ。 「紗瑛さん!」 オレは咄嗟に紗瑛さんに駆け寄り、その腕をつかんで引き上げようとした。が、体勢が悪く、引き上げるどころか腕を離さないことだけで精一杯だった。 「誰か手伝ってください!」 必死の思いで周りに手助けを求めたが、誰一人動こうとしなかった。 「え、優飛、紗瑛のこと助けるの?」 琉偉さんの驚いたような声が耳に届く。 いや、何言ってんだよ。助けるに決まってるじゃんか。 そんな思いで琉偉さんを睨む。すると、琉偉さんは「うーん」と唸りながら考えた後。 「だって紗瑛、さっきのことは秘密にしてくれないんでしょ?」 琉偉さんが、オレの横で優雅に手をつきながら紗瑛さんに問いかける。 「黙っててくれるなら助けてあげるよ。俺、別に紗瑛のこと嫌いじゃないもん。でも、これ以上佳穂の邪魔するなら……排除しなきゃね」 琉偉は悪びれる様子もなく、ただ淡々と言葉を紡ぐ。 秘密を守って自分が助かるか。あきらめずに樹の仇を取るかという紗瑛さんの葛藤が目に見える。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!