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「ひっ!」
芽衣子のひきつった声が聞こえた。琉偉さんが紗瑛さんを突き落とした……その迷いない行動に、思わず声が漏れた様子だった。
「あれ?」
琉偉さんが、下をのぞき込みながら首を傾げた。
屋上の淵に、かろうじて紗瑛さんが手をかけてぶら下がっている。彼女の命をつないでいるのは、か細い右手1本だけ。
「紗瑛さん!」
オレは咄嗟に紗瑛さんに駆け寄り、その腕をつかんで引き上げようとした。が、体勢が悪く、引き上げるどころか腕を離さないことだけで精一杯だった。
「誰か手伝ってください!」
必死の思いで周りに手助けを求めたが、誰一人動こうとしなかった。
「え、優飛、紗瑛のこと助けるの?」
琉偉さんの驚いたような声が耳に届く。
いや、何言ってんだよ。助けるに決まってるじゃんか。
そんな思いで琉偉さんを睨む。すると、琉偉さんは「うーん」と唸りながら考えた後。
「だって紗瑛、さっきのことは秘密にしてくれないんでしょ?」
琉偉さんが、オレの横で優雅に手をつきながら紗瑛さんに問いかける。
「黙っててくれるなら助けてあげるよ。俺、別に紗瑛のこと嫌いじゃないもん。でも、これ以上佳穂の邪魔するなら……排除しなきゃね」
琉偉は悪びれる様子もなく、ただ淡々と言葉を紡ぐ。
秘密を守って自分が助かるか。あきらめずに樹の仇を取るかという紗瑛さんの葛藤が目に見える。
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