11月25日

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だけど…… 「私は、樹を裏切れない。苦しんで自殺するあの子を見たから」 そう言って琉偉さんを睨みつける紗瑛さんの目には、涙がたまっていた。 その言葉を受けた琉偉さんは「そ、残念」と言い、一歩後ろに下がった。もう助けるつもりはないらしい。 「優飛、そのままだと一緒に落ちるよ?それでもいいなら、別にいいけど」 そう言う琉偉さんに続き、将勝さんまでも「もう手を離せ」と後ろからささやく。 ……離すもんか、紗瑛さんは昔のオレに優しくしてくれた人なんだ。 その思いだけで、彼女の腕を握り続けた。 「樹の事が露呈したら、いいのか?お前は犯罪者になるんだぞ」 将勝さんの言葉で、オレは思わず息を止めた。 犯罪者……人殺しである父親に対し蔑んできたオレが、あいつと同じ人種に? 父の汚名とともに生きてきた人生が頭をめぐる。虐められて、罵られて、逃げるように転校するしかなかった少年時代。 やっとそこから抜け出して、光が見えていたのに。 ……怖かった、人生が崩れてしまうことが。オレは家族の中に犯罪者いる苦しみを知ってるから。 オレの名が犯罪者として知れ渡れば、全てが壊れる。友人も、家族も離れていく。そして、あんな辛い思いを、オレは再び母や弟にさせてしまう。 オレは、樹の車に同乗した時点で既に犯罪者だ。だけど……それを世に知られるわけにはいかない。 そう、知られなければ何も変わらない。だから、あの時も「耐えられない」と泣く樹の言葉に耳を塞いだんだ。
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