11月25日

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「……暗くてよく見えない」 いつの間にかオレの隣にいる奏が、屋上の淵から下を覗き込んでいる。眼鏡をかけ直し、目を細めながら紗瑛さんの死体を凝視していた。 「急いで下に降りよう。誰か、紗瑛ちゃんの血を拭き取るために残ってくれるかな。ここで血痕が見つかるのは良くないと思う」 将勝さんが屋上の床に点々と残る血痕を指さし、淡々と言う。佳穂さんが殴った時に飛び散った紗瑛さんの血だ。 将勝さんは樹の事故の時と同じように、状況を冷静に判断しているらしい。問題解決能力と適応力は尊敬に値するけれど、その姿はあまりにも冷酷で利己的で……人間離れしているように見えた。 「……アタシがやる。殴ったのはアタシだから」 蒼白な顔をした佳穂さんが、震える手でパイプを拾い上げた。そのパイプにも、おそらく紗瑛さんの血痕と佳穂さんの指紋が付着しているだろう。 将勝さんは「頼んだよ」と佳穂さんに言った後、紗瑛さんが落とした樹のノートを拾い上げ、芽衣子が握っている紗瑛さんのスマホを回収した。 佳穂さん1人を残し、オレ達は全員旧時計塔校舎を出て、急ぎ死体の元へ向かった。もし誰かが通りがかりでもしたら……その不安が、オレ達の足を速めた。 校舎を脱し、改めて死体を見ると、あまりにも状態が酷かった。街灯も月明かりもない真っ暗闇の中でも存在感を強める紗瑛さんの死体。 仰向けで倒れた死体は、落下の衝撃で完全に頭が潰れていた。脳を撒き散らしたその顔は、綺麗だった紗瑛さんの面影もなく。 だけど……ついさっきまでオレの手を握っていた紗瑛さんの手は、固く握り締められたまま。それを見て、オレは激しい後悔に苛まれた。なぜあの時、紗瑛さんの手を離してしまったんだろう。
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