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「だけど、やるしかないですよねぇ……」
芽衣子が髪を耳にかけながら深くため息をついた。めんどくさいなぁ……なんて気持ちが前面に現れている。
「いや、もうこの現場は触らずに置いておこう。下手に触るとボロが出る」
そう言って首を振る将勝さん。
「紗瑛ちゃんが持っていた樹のノートと録音されたスマホ、これは僕が管理する。警察には自殺とは判断されないだろうけど、僕達が上手くお互いをかばい合えば逃げ切れるように考えるよ」
紗瑛さんのスマホには、先ほどのオレ達の会話データが残されているはずだ。それが警察の手に渡り、データを復元されることだけは防がなければ。
「あれ、奏はぁ!?」
唐突に、芽衣子が声をあげた。その声に反応して周りをみるけど、奏の姿がどこにもない。旧時計塔校舎から出る際、最後尾にいたはずなのに。
「ここに着いた時からいなかったけど」
琉偉さんがさも当然のように言う。気づいていたなら言ってくれればよかったのに。
奏はどこに行ったんだろう。もしかして、屋上から死体を見ただけで先にSに戻ったのだろうか。厄介ごとには巻き込まれたくない……奏の性格的にはあり得る話だ。
「逃げたな、あいつ」
透哉さんがイラついたように呟いた。
だけど、次の瞬間、それ以上に驚愕することが起こった。全員が奏の姿を探して、死体から目を離した一瞬の隙だった。
「死体が消えてる」
将勝さんの一言で、皆死体があった場所へ視線を戻す。だけど、そこには既に紗瑛さんの死体はなくなっていた。
死体どころか、散らばっていた臓物や飛び散っていた大量の血痕までもが消え失せている。一切の跡形もなく。
この状況には、全員が蒼白になった。死体が忽然と消えるなんてあり得ない。
「そんなバカな……今さっきまであった死体が無くなるなんて」
普段落ち着いている将勝さんや琉偉さんまでもが、動揺し固まっていた。
その時……
「なに騒いでんの?」
屋上の処理を終わらせた佳穂さんが背後から現れ、怯えていたオレ達は全員が飛び上がった。
怪訝な顔をしている佳穂さんに、琉偉さんが一連の説明をする。
「うそ、確かに落ちてたんでしょ?」
死体を見ていない佳穂さんは、紗瑛さんが死んだこと自体を疑っている様子だ。
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