677人が本棚に入れています
本棚に追加
/205ページ
「僕達全員確認したよ。頭がつぶれていて、間違いなく死んでいた。なのに、死体が消えたんだ」
将勝さんの非現実的な説明に、佳穂さんが苛立ちを強める。
「そんなことあるわけないでしょ!ばかじゃないの!」
佳穂さんの怒鳴り声に応戦したのは、透哉さん。
「そんなら、死体がどこにいったっていうんだよ!跡形もねぇんだぞ!」
「アンタら全員、目の錯覚でも起こしたんじゃないの!? 他のとこ探してみなよ!」
「んなわけねぇだろ!ついさっきまでココにあったんだから!」
「大声を出すな、2人とも!」
将勝さんが声をあげて、透哉さんと佳穂さんの喧嘩を阻止する。
2人が口をつぐんで静かになったところで、将勝さんが再度口を開いた。
「とにかく、一旦ここから離れよう。誰かに目撃されたら厄介だ」
周辺を探しても死体が見当たらない。とすると、オレ達にできることは何もない。ひとまず、その場にいた全員でSに戻ることになった。
Sへの帰り道、将勝さんが琉偉さんとしきりに何かを話し合っている声が聞こえていた。恐らく一番冷静な2人が今後オレ達が取るべき行動を相談しているんだろう。
けど、それ以外の全員は固く口を閉じたまま。まるで葬列のような悲壮感が漂っていた。
Sに着くと、もう時間は夜中2時をまわっていた。疲労感激しく、オレはとにかく自室に行きたいと将勝さんに願い出た。もう立っていることさえ限界だったからだ。
将勝さんはオレの精神状態を鑑みて、それを許してくれた。後のことは、将勝さんと琉偉さんで考えると、また明日話し合おうと言うことでその場は解散となった。
とにかく、横になりたい。全てのことから解放されたい。そう思って、重い足を無理矢理に動かして階段へと向かった。その時、
「優飛!」
背後から、芽衣子に声をかけられた。気のない目で振り返ると、芽衣子はオレを睨み付けて立っていた。
「今日のこと、誰かに話したら許さないからね。あんたが一番危ないんだから!」
芽衣子の必死な顔に、オレはふっと嘲笑を漏らした。
……死体も無いのに、何をどう話すんだか。
オレは芽衣子を無視して、階段をのぼった。部屋に戻ってなにも考えずに休みたい。その疲労感がオレを自室へと向かわせる。
死体が消えるなんて非現実的なこと、起こるワケがない。なら、これは全て悪い夢で、朝になれば何事もなかったように紗瑛さんが現れるんじゃないか。そう願わずにはいられなかった。
でも、翌朝目を覚ましても、紗瑛さんはどこにもいなくて。
最初のコメントを投稿しよう!