11月25日

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将勝さんと琉偉さんが明け方前にもう一度旧時計塔校舎を確認しにいったみたいだけど、やっぱり死体はどこにもなかったらしい。血痕も臓物も、何もかも。 それから数日後、娘と全く連絡が取れないと紗瑛さんの親が北海道からSを訪れた。けれど、オレ達には話せることなんて何もなかった。 ”紗瑛さんはアルバイトに行ったままSに帰らなかった”という将勝さんの説明を聞き、紗瑛さんの親は不安そうにSを出て行った。 よくもまあ、そんな嘘を並べられるもんだなとある意味感心した。 将勝さんは、自分にとって有利か不利かを常に計算しながら動いている。そこには正義も道徳もなく、ただ彼に関する損得勘定だけが存在している。 その後、紗瑛さんは失踪という形で捜索願が出されたと風の噂で聞いた。 紗瑛さんが死んだことは、世の誰にも露呈されないまま。旧時計塔校舎での死者は、自殺した樹1人だということになっている。 だけど、その日から、オレは毎晩のように紗瑛さんが死ぬ夢を見るようになった。オレの手を掴んだまま宙吊りになっている紗瑛さんが、泣きながら暗闇に落下していく夢。 一晩に何度もうなされ、まともに寝られた日がなかった。 どうやら、それはオレだけじゃないようで。皆があの晩の夢にうなされる日が続いたようだった。死体が消えた恐怖が、オレ達の深層心理に影響していたんだろうか。 最初に芽衣子が、次に佳穂さんが……もう耐えられないと、Sからの退去を申し出た。 オレ自身も限界だった。紗瑛さんの部屋の前を通るだけでも動悸が激しくなるような状況だったから。 卒業間近で修了単位を全て取り終えている将勝さんは実家へ、透哉さんは割のいい賃貸を見つけたと退去、琉偉さんは佳穂さんと同じマンションへ移動し、元々縛り付けられていただけの奏は喜んでSを出た。 こうして、シェアメイトが全て去ったシェアハウスSは空き物件となり、オレ達は完全にバラバラになったんだ。 以後、大学で見かけても互いに声をかけることはなかった。みんな、あの日のことを忘れたかったから。
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