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「私は死んだ。みんなに殺された。人と争わないように生きてきた私が、樹のためにはじめて勇気をだしてみんなと対峙したのに。……だけど、そんな私を進行人が助けてくれたの」
紗瑛さんが、とても嬉しそうに進行人を見つめた。
「そうだヨ。強い恨みを感じたカラ、遊びにきたノ。もうネ、興奮しちゃうくらいの恨みが死体からにじみ出てテ……このゲームを思いついたんだァ」
当時の状況を思い返しながら、恍惚とした表情で話す進行人。
「あの日“死んだ人”がゲームに了承したカラ、死体を回収したノ。ちゃぁんと直して、もう1回みんなの前に“生きている人間”として現さなきゃいけないからネ」
あぁ、だからあの時、紗瑛さんの死体が消えたのかとオレの中で納得した。あれはどう考えても人間業ではなかったし、説明がつかなかったから。
「どうして、私が死んだ人として復讐を選んだのか教えてあげようか?」
紗瑛さんが笑いながら問いかけてきた。
「私が恨んでいるのは、殺されたことだけじゃない。私を忘れて、樹を忘れて、みんなは何事もなかったように生きていく……そんなの、許せるわけないよね?」
「準備が整った3ヶ月目。シェアハウスに戻ったキミタチに、ゲームという名目の復讐を仕掛けたノ。ボクが封じ込めたあの日の記憶を、キミタチ全員が思い出せるかどうカ。死んだ人とボクとの賭けだヨ」
進行人が、楽しげに紗瑛さんの腰元に抱き着く。
進行人が封じた記憶は、11月25日の記憶だけ。だから、オレ達には樹の自殺に関する記憶は残されていた。
だけど、死んだ人が死んだ日の記憶が失われたオレ達には、樹と死んだ人の接点がわからなかったんだ。
「負けたら、私だって進行人に消される。だけど、私は負けない自信があった。みんな、死んだ人のことなんて忘れたかったんでしょう? だから、全員が記憶を取り戻すなんて無理だと思ったの」
そうだ、オレたちは全員あの日のことを忘れたかった。無かったことにしたかったんだ。
そんなオレたちにとって、"思い出す"というこのゲームは……苦痛以外の何ものでもなかった。
「私を突き落とした琉偉くん、殴った佳穂、手を離した優飛くん、全てを誘導した将勝くん……この4人は特に憎かったから、最後の方まで残しておいたの。その方が、じわじわ死の恐怖を感じられるかと思って」
紗瑛さんが妖艶に笑う。
先に殺されてしまえば、恐怖に怯えることもない。いつ殺されるか、どうしたら思い出せるのか……頭を悩ませる日々が長ければ長いほど、精神的な疲弊も大きい。
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