20XX年3月3日(後編)

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「でもね……佳穂だけは、私の手で殺せなかった。それはすごく心残りなんだよね」 紗瑛さんが、拗ねた子供のように口を尖らせながら話した。 佳穂さんは琉偉さんに鉈で殺された。つまり、死んだ人である紗瑛さんの手では殺せなかったんだ。 「一昨日は佳穂を殺すつもりだったけど、琉偉くんに先をこされて『渡さない』なんて言われちゃうから……思わず琉偉くんを殺しちゃったよ」 「琉偉さんは、どうして佳穂さんを殺したんですか?」 「佳穂が思い出しちゃったの、琉偉くんが死んだ人を落としたこと。責められて、箍が外れたみたいよ。佳穂も都合いいよね、自分が死んだ人を殴ったことは思い出さずに、琉偉くんのことだけ思い出すなんて」 琉偉さんが佳穂さんを殺したのは、責められたことに対する怒りからなのか、佳穂さんが自分から離れることへの恐れからなのか……今となってはわからない。 「まぁでも、琉偉くんとしてはよかったんじゃないかな。佳穂が死んだ人を殴ったこと、思い出させないようにしていたみたいだから。思い出したらまた佳穂が傷つくと思って、彼なりに守ろうとしていたんじゃないかな。だから、奏ちゃんが死んで喜んだんだと思うよ」 ”佳穂さんが一番嫌っている人間”が”死んだ人”であること、奏はそれに気づいて佳穂さんに近づいていた。きっと、奏は佳穂さんが死んだ人を殴っていたシーンを思い出していたんだ。 「琉偉くんの"佳穂依存"も困ったものだよね。佳穂の妨げになるものは全部排除するんだよ。私もその対象に入っちゃったから、琉偉くんに殺されちゃったわけだけど」
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