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「でも、いいんだ。一番殺したかった優飛くんは、誰にも邪魔されずに殺せそうだから」
朗らかに恐ろしいことを話す紗瑛さんに、オレは思わず後ずさる。きっと、本能が警鐘を鳴らしているんだ。自分の命が危険だと。
だけど、オレは逃げたくなる気持ちを必死で抑えた。だって、これは前々から決めていたこと。紗瑛さんが死んだ人である以上、オレは喜んで殺されようと思ったんだ。
それは、あの屋上で彼女の手を離してしまったことへの罪滅ぼしのため。その報いを、ようやく受けられるから。
このゲームの中で、彼女に言えるはずがなかったオレの気持ちを伝えられた。そして、"死の記憶がない紗瑛さん"とは想いを通じることもができた。
これ以上ない幸福……もう心残りなんて一切ない。立ち向かうように紗瑛さんを見る。
彼女と目があった瞬間、なぜか紗瑛さんが頭を押さえて顔が歪ませた。「このニセモノ」……そんな言葉を吐き捨てながら。
不審に思うオレに、紗瑛さんは再び笑顔を取り繕ってこう言った。
「進行人に作られた人格がね、生意気なの。少しずつ強くなってるみたいで、私を押し込めようとするんだよね。前は昼間も私の意識はあったのに、今日は昼の記憶がハッキリしなくて」
作られた紗瑛さんの意識が強くなっているということだろうか?一体どうしてそんなことが起きるんだ?
「ニセモノのくせに、私から離れて自我を持ちだしたんだよ。ニセモノがオリジナルに刃向かうなんて、どうかしてるよね」
冷酷に笑いながら、彼女がオレに近づいてくる。昼の人格を押し込めたのか、もう顔を歪めることもなく。
オレは目を伏せ、彼女の到着を待った。
「……ちゃんと紗瑛さんと話せてよかったです。いつもみたいに、死んだ人の殺害時間は眠らされると思ってたので」
夜中の2時から4時の間に襲われる異常な眠気。それは、死んだ人の殺害行為を邪魔しないためのものだろうと予想はついていた。
だから、死んだ人の標的となった人物も眠らされていると思っていたけれど……
「ふふ。眠ってもらっていたのは、殺す対象者以外だよ。殺す人とは、じっくり思い出話をしたいじゃない?それに……眠ったまま殺すなんて優しいことしないよ、私は」
紗瑛さんは一歩、また一歩と進み、オレとの距離を縮めていく。
「死ぬって思った瞬間ね、私すごく怖かった。なら、みんなにも同じように恐怖を感じてもらわなきゃ。最期は、みんな怯えてたよ。私のこと、きちんと思い出してくれた証拠だよね」
とても嬉しそうに、そして無邪気に笑いながら、紗瑛さんはオレの頬に触れた。そして、
「ねぇ、優飛くん。私、死にたくなかったよ。だけど、優飛くんは最後に私の手を離したよね?あなたが私にトドメをさした。そうだよね?」
彼女が右の手のひらを大きく広げ、オレの両頬を掴む。5本の指が頬に食い込み、痛みに悲鳴を上げそうになった。
が、彼女の手に口を塞がれている形になっているため声が出せない。
そうだ。芽衣子が言う"殺した人"は、紗瑛さんを突き落とした琉偉さん。だけど、彼女の手を離して見殺しにしたオレこそが、本当に"死んだ人を殺した人"だと思う。
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