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「……っ!」
これは、骨が軋む音だろうか。女性とは思えないほどの握力で、両頬が圧迫されていく。
これまで見てきたシェアメイトの死体。死んだ人に殺された人間は、みんな頭部を潰されていた。多分、この人並み外れた力で砕かれたんだろう。
「大丈夫だよ。優飛くんに対しては一番恨みが強いから。誰よりもゆっくり、じっくり、時間をかけて壊してあげる」
目を見開いて微笑む彼女は、本当に心の底から嬉しそうで。その姿を目の当たりにしたオレは、頬に涙が伝うのを感じた。
痛みよりも恐怖よりも、謝罪の気持ちが大きいんだと思う。あれほど優しく美しかった人に、こんなにも醜い感情を植え付けてしまったなんて。
「……がぁ……うぅ……」
締め付けては緩める、また締め付けては緩める……紗瑛さんの右手は、オレの顎部で同じ作業を繰り返す。
その力は少しずつ強くなり、いっそひと思いに潰してくれと願うほど激しい痛みのループに襲われていた。
「痛いよね。苦しいよね。まだまだ足りないよ。もっと楽しませて」
光悦の表情を見せる紗瑛さん。
あまりの痛さに、気が遠くなっていく。でも、気絶さえも彼女は許さない。いたぶって、苦しめて、絶望の中で死なせるのが紗瑛さんの復讐なんだ。
ふっ、と顎部を攻める手が離れた。オレは床へと崩れ落ち、荒い息で座り込む。ぼやける視界の中、オレが見たのは……頭をかかえて顔をゆがめている紗瑛さんだった。
「邪魔しないでよ!あんたなんか、ニセモノのくせに!」
独り言のように、誰かに怒鳴る。その目は床を見つめていて、そこに誰かがいる様子もない。なのに、彼女は額を押さえながら「消えろ」「出て行け」と叫び続けている。
……まるで、頭の中の人格と体の取り合いをしているかのようだ。
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