20XX年3月3日(後編)

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しばらくの後、彼女が脱力したように座り込んだ。うつむいているから、その表情は読み取れない。 戸惑うオレの目の前で、ゆっくりと顔を上げた紗瑛さんは昔のような優しい目で笑っていた。 「所詮、私は進行人に作られたニセモノ。だけど、ホンモノのあなたにはないものを持ってるよ」 自分の中の人格に語りかけるように、紗瑛さんが小さな声でつぶやく。 「あなたは知らない、人を愛することを。私は知ってる、愛する人がいる幸せを」 紗瑛さんはオレの目をまっすぐに見つめた。曇りもない、全てを達観したような目つきで。 「優飛くんのことを大切に思うようになって、私は強くなれた。優飛くんを好きになるほど、一緒にいたいと思うほど……怨みを抱く自分自身さえも押し込められるまでに」 Sに閉じこめられ、昼夜ともに過ごした7日間。その中で、かつて打ち明けられなかった過去の感謝を伝え、彼女と想いを通じることができた。 それが、作られた昼の人格を強くしたというのだろうか。 「進行人。もう投票結果がわかってるんでしょ? はやく開示して、終わらせて」 紗瑛さんが進行人に目をやり、強い口調で促す。でも進行人は納得がいかない様子。 「えー……まだ開票時間じゃないヨ?」 「開票後にしか殺害できないはずの死んだ人が、今、標的を殺そうとしてる。その時点で既にルール違反よ。あなたは中立を保つ立場なんでしょう?」 「うー……まぁいいケド」 興ざめしたかのように、進行人が口を尖らせる。 投票結果? 終わらせる? 一体、紗瑛さんは何を言っているんだろう。 他のみんなが死んでしまって、投票が有効なのはオレ1人。もちろん、オレは紗瑛さんに票を入れていない。彼女の復讐の邪魔はしたくないから。 疑問に眉を寄せていると、ポケットでスマホが振動した。震える手でスマホを操作し画面を見ると、投票結果のメールが届いていた。 最後の開票メールは、文字化けをせずに読み取れる状態のものだった。
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