20XX年3月3日(後編)

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「紗瑛さん……どうして?」 「"私"が始めたゲームなら、"私"が終わらせる。それだけだよ」 「オレを殺してからにして下さいよ! 一番死ぬべきはオレなんだ!」 懇願するように、紗瑛さんに向けて頭を下げた。あの日、最終的に彼女を殺したのはオレだったから。 でも、紗瑛さんはオレの頬を両手で包み、そっと押し上げて……唇に口づけた。 最愛の人とのキス。とても幸せなことのはずなのに、ひどく胸が苦しい。きっとそれは、これが彼女に触れられる最後だから。 茫然とするオレから、紗瑛さんは俯きながら離れる。そして、再び顔を上げた彼女は微笑んでいた。 「あなたにはやるべきことがある。その意味、わかるよね?」 紗瑛さんはとても悲しそうな顔で、こう続ける。 「生きて、きちんと償ってほしい」 その瞬間、オレの瞳から涙が溢れた。 ……無理だ。 償いたい相手もいない、一緒に償うべき仲間もいない。みんな死んでしまった中で、オレ1人どうやって生きていったらいいんだ? 「頼むから、死なせて下さい。あなたは、誰よりもオレを恨んでいるはずだ」 「そうね。私は、私を殺したあなたを許せない。でも……それでも、あなたを好きになってしまった。怨みよりも、あなたを想う気持ちが強くなってしまったの」 「苦しいなぁ」……彼女は瞳に涙を溜め、そう言って笑った。憎しみと愛情、相反する気持ちが心を支配して、葛藤という形で彼女を苦しめているんだ。 どうして、オレは彼女を苦しめることしか出来ないのだろう。過去、あれほど彼女に救われたのに。
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